「水鳥も恩を返す」
作 どらぽん

水鳥が湖にいました。
小さな鳥で、飛べないでいました。
つばさが、ケガをしているのです。
それで、もがいてもがいて、必死になるんですが、
飛べません。
すると、人間がやってきて、水鳥を捕まえました。
水鳥は死ぬ、殺されると、おびえていました。
けれども、人間は、こんな小さな水鳥なんか、食うわけない。
と、家にたどりつくと、水鳥の羽根を見て、薬をぬってやり、
しばらく家に置いて、小魚なんかも、わずかでしたが分け与えてやり、
治るまで様子を見ていました。
何日もすると、水鳥の羽根も治ったようで、人間は天気のいい日を
みはからって、湖に水鳥を連れていき、放ってやりました。
水鳥は大喜びで空を自由に飛び回りました。
「よく治ったあ! よかったあなあ。気をつけるんやで」
と、人間がいうと、湖から去っていきました。
何年かのちのこと。
人間が捕まりました。水鳥の中でも禁制の鶴を捕まえた罪です。
それで、死刑を言い渡されました。
「やい、百姓のくせに、よく禁を犯して、鶴を捕まえたなあ! 」
侍がいうと、
「めっそうもございません。なにかのまちがいにございます」
「いいや、お前が犯人だ」
人間の百姓に、死刑が言い渡されました。
侍には、百姓は逆らえません。とうとう、死刑の日が来ました。
たくさんの水鳥が、空が暗くなるほど押し寄せてきて、
役所の仕事の邪魔をしました。百姓の死刑なんてできるわけもなく、
死刑執行はとりやめになりました。
それから、百姓の死刑の日になると、必ず、水鳥が来るのです。
それが、何回か繰り返されて、とうとう、鶴を捕まえた真犯人が
捕まったのです。
百姓は、無罪放免になって役所から追いだされ、
「ひいい。命だけは助かったあ」
百姓は、でもどうして水鳥が大勢押し寄せたのか、分かりません。
ずっと昔、小さな水鳥を助けたことなんて、忘れているのでした。
水鳥たちは、いまでも湖でたのしく、飛んだり食べたりしていて、
ゆうゆう泳いでいますよ。
おしまい
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