
「宙を駈ける」
作 どらぽん
(わたしは将来どうなるんだろう? いつかは死ぬんだ。でも、そのいつかはいつ来るんだろう? 明日かもしれないし、ひょっとしたら百年後? それまでは必死になって生きるんだ
美咲がノートの中にそう書いてから亡くなるまで、三日も経っていないだろう。友人の宙(そら)が、ノートを見つけて、みんなで回し読みして、泣いた。
美咲の両親も知らなかったノート。
美咲は、重度の病に侵されていたことを、宙だけが知っていた。美咲も知らないのに。だから、美咲にノートを渡したのは宙なのだ。だから、ノートに何か書いてないか調べたのだろう。
宙という名前は、将来、宇宙飛行士になってほしいからという、両親からの願いがあって付けたのだという。

「ぜってえ、無理だよ」
と、宙が言うと、
美咲は、「分からないじゃない」
「マジ言ってる? キモイくね」
とか、宙が言い返すと、美咲は悲しそうな顔をする。
「考え方が古いんだ、美咲は! 」
宙がそう言うと、美咲は、
「わたしも、飛べたらなあ」
と、独り言を言っていたのです。
宙だって、宇宙飛行士になりたいんです。でも、宙はあきらめているんです。勉強ができないからと、無理だからと、そう決め込んで、あきらめてるんです。
飛べないんでないし、飛ぶのが嫌なんじゃない。まったくの宇宙飛行士は無理www
そう思っている、宙。
そんな美咲は、亡くなってて、天国にいました。
天国の天使は冷たくて、そっけなですが、美咲は言いました。

「お願い、お願いがあるの! 」
天使は露骨に嫌そうな顔をしました。
「生き返らせては、ダメだぞ」
「分かってます」
なんだと! と、言わんばかりに、天使は、美咲をにらみつけました。
「友だちが前に飛びたいと言ったんです」
「飛びたい? 」
ハハハ、天使は、笑えるwww
そう、笑い続け顔を、緩ませました。
「何のジョークだ? 」
と言うと、
「宇宙に飛びたいんです」
きっと! たぶんだけど、美咲は言うと、
「ふーん」
どうする? ><;
天使は、顔をしかめました。
良い考えが、浮かばないのです。
「どうしたらいいんだ!? 」
天使はしびれを切らして聞いてきました。
「私が、宙に憑依りうつって、ときどき勉強してあげたら、宙も勉強が分かると思います」
「ふーん? 」
天使は気が進まないようです。そうかなあ? どうかなあ?
考え込んでて、ようやく口を開いて、
「生き返らせるんではないんだな」
「生き返るんではないです」
「もしも、宙という子の肉体を乗っ取ろうと考えたりしたら、地獄いきだぞ! 」
天使は、きっとだぞと言わんばかりに言いました。
「そんなことしません! 」
美咲は、はっきり言うと、
美咲は目が覚めた。
目を覚ませた美咲は、鏡で顔を見た。夢だと思ったのだ。
まさか、私はすでに死んでいる? なんてことないと思ったのです。
「! わ!!」
びっくりしました。美咲の顔は宙でした。
「えー!? わたし宙なの」
宙は男で、高校生でしたから、いくら美咲と幼馴染でも、こんなにもはっきりまじまじと、宙の顔を意識したことはありません。ふーん。とか思うと同時に、美咲は驚きつつ、
(眠って起きたら、天国にいて、起きたら宙で、私なのかな? )
美咲は、心の中でそう思うと、私ってやっぱり死んだんだ。
まああ、いいか、眠い・・眠ろう。
さっきまでいた布団の中に潜ろうと思いましたが、そこには、宙がいたんだとおもうと、急に恥ずかしくなりました。まあ、そこで寝るんだ! とか、気合を入れると、また、妙に気まずくなって、尿意?かな? 美咲はトイレに行きたくなりました。
緊張するとなるよね? そんな感じかな?
トイレ、トイレ! とか美咲は思い、ばたばた勝手知ったる、我が家でない家。トイレはここです!
みたいに、笑いながら入ると、
「やだあ」
とか思いました。ツイてるからです。ラッキーでないです!
美咲は、ドキドキしながら、トイレから出ると、顔は真っ赤でした。
本当は気絶しそうです。びっくりです。初めての接触は未知なる接触、ETかもです。
それから眠りました。布団? 気にしてられないです。
美咲はそう呟いて、zzz眠りました。
「!? 」
(なんか変な夢見たなあ??? )
「おれが、美咲になってた夢を見た」
なんかのアニメみたいだな? 宙はそう思ったのと同時に、自分が美咲を恋しがっていると思った。そんな寂しさがどんと背中に飛び乗るのを感じた。
そうだ! と宙は思った。自分の中に美咲はいるんだ、と。
そんな、安心感を、美咲ともに生きるという強い義務感は、やすらぎですらあった。
そう、当然なこと、宙は夜寝るのである。もうすでに朝であった。美咲が起きるのは夜中なのだ。
宙は、考える暇もなく学校へ行った。
美咲は、宙が授業中居眠りすると起きだした。猛烈に勉強し、気づかれないように細心の注意をしながら、美咲が眠るまで、真夜中勉強した。美咲は勉強は得意なのだ。その分、体が丈夫ではなかったのかもしれない。宙は反対に体だけは丈夫だ。
美咲はひたすら、真夜中勉強した。
(おー! おれって頭いいんだ)
宙が驚くほど、テストがすらすら解けて、点数が100の嵐のようです。
「すげえ」

生徒たち皆が、悪夢を見てるようです。
宙を見る視線は、まるで美咲が宙になったと、錯覚した? 悪夢とは、お化けを見ている感じでしょうか?
先生が宙を職員室に呼びつけました。
「ぜってえ、ちがう。そんなことやってない! 」
カンニングかなんかでもと思われたのです。
でも、正直言うと、先生は変な顔をしていて、なんかぽかんとして、まあな・・。とか、もごもご口元で言うと、あっちいけと、手をぷらぷら振って、
「くそお! なんだあいつ」
宙は、頭にきて、ぶつくさと教師の悪口を思いつくさま、言い続けました。
(気づいたんだ。なんとなくだけど・・。おれの頭の中に美咲がいて、真夜中に勉強してるんだ。夢の中で、おれは美咲と勉強してるんだ。一緒になって。で言うんだ。トイレだけは本当は宙に行ってほしい)
なんてな!
バカみたいだ。と宙は思う。本気になって、教師に言ったら、あいつバカにしやがって。正直に言ったんだ。
バカみたいだ。
何度も、宙はバカみたいだ。を繰り返して、
(おれは美咲を知っているから。美咲は生半可な優等生じゃない。おれとは違うんだ)
それは、わかる・・。分かるけど。
そうさ。美咲は言ったんだ。
けど、もういないんだ! 死んだんだ!
分かってるよお・・。
宙は、目から涙が少しこぼれそうなのを、必死にこらえ、やるせなさに肩を震わせ、くそお! と叫んで、
「そおおか! 美咲のやつ、おれに宇宙飛行士になれというのか! 」
ははは。まさかとはおもったけどな。
宙は、それからは体を目いっぱいに鍛え始めました。器械体操をやろうと、体操を部活に入部して、もともと運動は得意だったのと、気のいい性格なので、部員とも仲良くやっていきました。
「運動はおれの得意だ。勉強は美咲の得意だ。がんばろうぜ! 美咲」
夜は疲れて、ぐっすり眠るほど、勉強がはかどるのかな? テストは100の行進だ。うん、いい仕事してるな。美咲!
クラスの女子は、あこがれの視線。男は、なんかいけ好かない顔になってる。
すごいね! は、女子の言葉。男子やそれまでの悪友は、け! みたいなかんじだ。
でも、女子の目線があるから、男子は何も言えない。
宙は、周りから遠い存在になって行き始めていた。
「睡眠学習法? かな? 」
美咲も、結局勉強ばかりのがり勉だったから、おれはスポーツばかり。
両方できるのって、ズルいよな・・。
宙がそう思っていると、夢の中で美咲が、
「あんまりちょーしにならないでね」
とか、言ってくる。なんか、美咲まで嫉妬してねー?
宙は言っとき思ったけど。
やっぱり、ちょーしにのってんだな、とか反省しました。
反省して、勉強してるの美咲なのに、褒められているのは宙というのは、理不尽かもしれません。そう思うと、夢だけでなく、夢の中のお告げみたいでなく、
ただなんとなく、美咲と会話ではなくて、そんな会話? どうやったら?
とか思うと、あるアニメの真似をしてノートに、こっそり日記みたいなのを書いて、机の中に隠すようにいれました。
隠し事ノートは、秘密のベールに包まれたように、ひっそりと、けれど目立つように、入れておきました。
(美咲へ。
どうして死んだんだと、責める気はない。でもどうして><;おれの脳みそ?
><;わからん? 頭の中だけで、しかも、眠った時だけ、蘇るんだ><よくわからんが? 宇宙飛行士を目指すとか? そんなことだろうか? おれは頑張ろうと思う。日本初の国産ロケットの宇宙飛行士に! )
宙はノートにそれだけ書いただけで、涙があふれでて、部屋の中で、布団にくるまりながら、いっぱい、一生分泣きました。もう泣かないと、決めたくらいに、泣きました。
美咲はお化けでも幽霊でもない。美咲のままだ。祟られるわけもない。
そんなこんなで、死ぬから、美咲が死ぬから、おれは苦しむんだ。
いろんなことを考えながら、毎日ノートを開いて、白紙なのを見てがっかりしてたら、1週間後、ノートにたくさんの文字が手書きで、美咲の字で書かれてあった。美咲の字で、美咲と宙にしか分からない内容が記されていた。
(ごめんなさい、宙。勝手なことをして、別のトイレの事ね。誰にも言わないから、だまっているから、ごめん。あと、勉強するだけで、他は何もしないよ。
一緒に? 宇宙飛行士になって、月に行こうね?
トイレに行かなくても済むように、夜食に飲み物禁止だからね^^b )
とか、冗談なのか? 本気なのか? 美咲は存在するのだ。
本当なんだ!
宙は証明されたと思うと、科学よりマジすげえ。
とか、思ったのと。
「トイレ? なんじゃそりゃ? 」
すぐには、分からなくて、
「あーーあいつう! 」
そうだ! そうなんだ! 宙の大事な部分をつまんで、トイレに行ったりしたんだ。そうだ! と言うことは、つまりは・・見られたということだ。
また涙が出そうだった宙でも、露出癖がない宙は恥ずかしさでいっぱいだ。
くそおお! 美咲のも見せろとか言いたいが、そのことを思うと、また涙が出そうだった。宙である。
そう、目標はトイレでなくて、宇宙飛行士だ!
そうだ、宙は、がんばろーー美咲! と気合を入れた。
まあ、勉強は美咲で、宙は寝るだけだけど><
楽でいいね?
宙はそれから、ノートに何か書くと、1週間おきぐらいに、美咲と宙との交換日記が交わされていく。

単純に、美咲が生きてた頃が実際に戻ってくるわけでもないが、美咲が生きているようで、宙はうれしい。
美咲を幽霊とは思わない。本当に美咲と夢を叶えたい。そんな思いでしかない。
心の中は、宇宙飛行士になる夢でいっぱいだ。
本気の事を、ノートに書きたくて、宙はノートに書いた。
(おれは、宇宙飛行士になるのが夢ではなかった)
美咲も、
(宙が宇宙飛行士になれるとは思わなかった)
美咲は、本当のことなのか分からないが。
(天国にいってね、天使にお願いしたの。宙を宇宙に行かせてあげたい。宇宙飛行士になってほしい)
美咲は、(願いが叶ったのか? こんなふうになってしまって、宙に迷惑かけたね)
なんか、生真面目風な、美咲の言葉に、宙はうんうんとか思うと同時に、美咲の夢って何だったんだろうな? と不意にそう感じた。
美咲は、宙に夢を託しているようで、半ば強引な? 見たいで気が引けるらしい。
だから、交換日記に、夢について宙は書き記した。
(将来の夢ってあった? おれ何もない。でもあるような気がする。何かはっきり言えない。でも、まあ言える気がする)
(夢かあ。将来の夢は、特になかった・・いあ、あったかも? でも、いまさら言ってもね・・)
二人とも同じだと思う。宙は思う。叶わない夢だから。夢であって夢であり、夢であり続けるから・・。
宙の夢。ふつー。ふつーの会社員、ふつーの家庭。平凡を絵にかいた。そんな夢。平凡が夢であり続ける・・。
それは・・やっぱり美咲もなのかな?
(夢。それは・・もう言えない)
悔しそうに、文字が震えている。恥でもあるように、夢の漢字は大きくて強くて、そんな字で書かれていた。
結婚が夢であるなんて、そんなこと、やっぱり恥ずかしいかも?
・・おれはまだ言えない。きっと言うまい。美咲が可哀そうだ。
おれは・・美咲と・・結婚するのが夢だった。
夢・・じゃなくて当たり前だと思ってたから、夢とは思わなかった・・。
もう一つの大きな夢! 挑戦するぞ!!
いいか! 美咲!!
宙は言います。いつか、おれは・・
「宙を駈けてみせるぜ! 」
駆け抜けて見せる! 美咲!
みてろよお!
宇宙にいったら、頭の中の美咲が、宇宙船の中で、地球を見るんだ。見せてやるんだ、地球を!
青い地球を。見せてやる。
そのためならば、おれはいつでも死んでやる。死んでもやり遂げる。
(美咲が死んだとき。おれも死にたかった。美咲はおれの全てだった。おれは死んだんだ。でも、生き返った。夢を一緒に叶えような)
夢を!
宙は日記に書いた。
ふたり? だけの秘密の交換日記は、いつまでも続くのである。
END
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